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	<title>novel - つまさきからこんにちは</title>
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		<title>出会いは偶然か運命か　1</title>

		<description>「お疲れさまでした」
　午後八時。定時…</description>
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			<![CDATA[ 「お疲れさまでした」
　午後八時。定時を数時間超えてようやく帰り支度を済ませた彼は事務所にいるスタッフに声をかけて退勤する。
　北西　郁弥（きたにし　いくや）二十六歳。第二性はオメガ。……一応。
　男女の他に第二性としてアルファ、ベータ、オメガという三つの性があるこの時代。何事にも優秀なアルファ・一番多いとされているベータ・そして人間の劣等種とも言われ、男女ともに妊娠が可能なオメガ。
　昔程性別による格差は無くなってきたとはいえ、アルファやベータに比べてオメガは今でも劣っている、フェロモンで他のアルファやベータを誘惑する淫乱だ、など云われのない誹謗中傷を受けたりして生きにくい思いをしている人が多いと言われている。
　しかし、郁也は違った。
　第二性はオメガであるものの、オメガ特有の発情期やアルファや一部のベータを誘惑するフェロモンの分散、といった生理現象が起きないのである。
　オメガとしての他性別に対する防衛本能が強すぎるが故の発育不全、と病院で診察された際に言われたが、郁也はそれに対して特にショック等は受けなかった。
　彼を診察した医師曰くそういったオメガが極々稀に生まれるらしい。一体どういう要因で防衛本能がそこまで強くなってしまう、のかは今の時点では研究が進んでいないとの事だ。
　故にベータの様に振舞えるし、オメガだから周りのオメガが急に発情を起こしてもフェロモンの影響を受ける事がない。
　そして何より、アルファのフェロモンを嗅ぎつける事がない。それは郁也が生きていく上で有利極まりなかった。それが例え「オメガの出来損ない」と言われていたとしても。


「今日も疲れたな……」
　と小さく呟きながら帰路につく。今日は夕飯作るの面倒だし、コンビニで簡単に済ませてしまってもいいだろう。
　そんな事を思いながらとぼとぼと歩いていく。最近ずっと残業続きで足取りが重たい。
　途中、コンビニで簡単な弁当と飲み物を買って、そのまま自宅へ。
「ただいま……」
　そういって玄関を開けても迎えてくれる存在はなく。暗くてもわりとした部屋が待っているだけだ。
「部屋蒸し暑……」
　そう呟いて窓を開ける。本当はエアコンをつけた方がいいのだろうが、電気代の節約である。
　大学を卒業してから就職活動が上手くいかず、とりあえずフリーターとしてでも……と働き始めた書店の居心地が良くて今の今まで働き続けている。
　他の所でアルバイトを試みてもどうしても第二性別欄に書かれた「オメガ」という単語が採用を邪魔する。
　いくら発育不全で発情期が来ない、他の性別のフェロモンに反応することがない、と言っても簡単には信じてもらえず。
　その言葉を信じて採用してくれたのが今の書店である。
　雇ってくれた事への恩、と言っては言いすぎかもしれないが、そういう理由もあって郁也はここから離れる事ができなかった。
　洗面所で手洗いうがいを済ます。ちら、と傍の棚を見れば、医師から貰っている抑制剤が視界に入り。
　何かあったら飲みなさい、と指示を受けてはいるもののこの数年そういった事が起きた試しはなく、一度もそれを口にしたことがなかった。否、これからもきっと口にすることはないのだろう。
　洗面所からのろのろとリビングへ移動して、買って来たコンビニ弁当を開ける。
　電子レンジで軽く温めて、サブスクで配信されているドラマを見る。
　その後は風呂に入ってスマホを弄って。
　明日も仕事だ、と思いながらベッドで眠る。それが郁也の変わり映えのない毎日だった。

　翌日。
　いつもと変わりのない朝を過ごして、書店へ。こちらもいつもと変わらぬ業務。終わらない品出し、途中で声をかけられる事で止まる仕事。
　今日も帰れないかも……なんて思いながら棚に本を入れていると、ふわりと郁也の鼻孔をくすぐる香りが漂ってきた。
　どこの香水だろう。そんな事を思っていると背後からすいません、と声をかけられる。
「はい、いらっしゃいませ」
　声をかけた人物に微笑みながら挨拶をして。すると、再び先程と同じ香り。
　ああ、この子か……と郁也は目の前にいる客を見ながら思う。服装的に大学生だろうか。大学デビューで香水をつける、わからなくはない。
「あの、この本探してるんですけど」
　そういって、ずいっと目の前にスマホの画面を出してくる。最近こういう客が多いが正直見にくくて堪らない。目の前に突き出されるのも余り気持ちのいいものでもない、と郁也は常々思っている。
「大学の授業で使うって言われて……ないですか」
　その画面にはホワイトボードに書かれたタイトルだけ。出版元の名前もない。
　郁也は画面に映った文字をメモ用紙に書きとめていく。
　－－あれ……。この教室、もしかして。
　見覚えがあるな、と郁也はその画面を見ながら思う。もしかして、この子大学の後輩なのか……？
「これ……語学の教科書ですか？」
「っ、はい。あの、今度の授業までに持って来いって言われてて……」
「いつまでですか」
　嫌な予感がする。郁也は会話をしながら思う。大体こういう話の流れの時は早急に必要な事が多い。例えば……明日、とか明後日とか。
「えっと……できれば、明後日までに欲しいんスけど」
　－－何言ってんのコイツ。
　どうして明後日までに必要な本を今更になって探しているのだろうか。店に在庫があるものならいいが、大学で教科書として使われているような本は大抵置いていないのだ。
「……調べてきますね」
　呆れた態度をできるだけ隠して郁也は事務所のPCで検索をかける。そもそも検索機があるのにどうして自分で調べないのだろうか。もしかして人に聞く事が調べる事だと思っているのだろうか。もしそうだとしたら今後レポート等を書く時に苦労するだろうな、なんて郁也は思う。
 検索用のPCを叩いて調べてみるが、やはり件の教科書は取り扱っておらず、明後日までに用意するのは不可能なのが確定した。
　最近このパターン多いよな、と郁也は溜息を吐く。授業が始まる数日前に来ては無いと聞いて焦り出す学生を一体何人見たことか。
　どうするかな、と郁也はその画面を見ながら思う。本来なら唯の客にそこまでしてやる云われなんて無いのだが、自身の大学の後輩と気付いてしまったら何かしてあげたい、と思ってしまったのだ。
「ええっと……すいません、やっぱりうちには置いてないですね」
「あ、そうですか……」
　検索結果を待っている彼にそう告げる。その顔には絶望にも似た表情が浮かんでおり。
「えっと……お客様、もしかして」
　〇〇大学ですか？　と聞くと、目の前の彼が目を丸くする。それもそうだろう。店員がいきなりそんな事を言ってきたのだから。
「えっ……なん、でそれ……」
「本当はこういう事あんまり言わない方がいいんですけど、俺そこの大学卒なんですよ」
　マジ？　と目の前の彼は小さく呟く。話の流れで何かを察したのか、何かを期待しているような、そんな視線が郁也に向けられる。
「で……その、多分同じ授業を受けた事あって……それで良ければ」
「教科書、持ってるんですか⁈」
　郁也が最後まで言い切る前に彼が食い気味に聞いてくる。この流れで持ってない、なんていう訳が無いだろうに。
「若干書き込みとかもしてますけど……」
「それでいいです、貸して下さい！」
　やったぁあ……！　と目の前の彼はガッツポーズを決める。周囲に他の客がいなくて良かった、と郁也は我に返って思う。もし他の客がいたらクレームが来ていたかもしれない。
「じゃあ……俺明日休みだから大学に持って行きますね。……F棟前でいいですか」
「大丈夫です！　オレ明日はフルで大学にいるんで！」
　これ、連絡先です！　と彼はポケットからくしゃくしゃになったメモ用紙を取り出し、メッセージアプリのアカウント名を書いて郁也に押し付けた。
　彼がそれを受け取るのを確認すると、ありがとうございます！　と頭を下げながらその場を去っていく。
　彼がいたその場には残り香－－ウッドとムスクが混ざった様な－－だけが漂っていた。
　……俺、何でこんな事……？
　用紙をズボンのポケットに入れながら郁也は考える。相手は唯の客だろう。店員と客の境界線を超えるべきではなかった。
　けれど、何故か放っておけなかった。それは彼が自分の大学の後輩だと気付いてしまったからなのだろうか。
　だとしても、だ。郁也自身正直大学に思い入れは無いし、後輩を大事にする、という事も一切してこなかったのだ。
　うちの店にはありません。取り寄せにも時間がかかります。と残念でしたもっと早くに用意しろ。の気持ちを込めて言うだけで話が済んだ筈だったのに。
　自分は今とても愚かな事をしたんだ……。そう思いながら郁也は遺りの時間を黙々と仕事をして費やす事にした。

「ただいまぁ」
　残業する気も失せ、定時で上がった郁也は久々にスーパーで夕飯の買い物をして帰宅した。
　本当は残ってもう少し仕事を進めたかったが、今日の出来事のせいでそれどころでは無くなってしまったのだ。
　――何であんな事言っちゃったのかな……。
　ずっと心に残っていた事を声にする。大学の後輩だったからか。否、あの大学にそこまで思い入れは無い筈で。
　目の前で困っている人がいた、自分がその解決策を持っていた、から提示した。それだけの話……なのだろうか。
　と、その時ふと彼の匂いを思い出す。ウッドとムスクが混ざったような、彼の歳にしては大人ぶった香水。
 良い匂いだったな……と鼻の奥に残るその匂いを感じながら目を瞑る。明日会った時にどこの香水か聞いてみるか。
　そんな事を考えながら郁也は机の下にしまい込んだ箱を引っ張り出す。大学時代に使っていた教材類は全てここにしまい込んでいたのだ。
「あ、あったあった」
　箱を漁り始めて暫く。目的の教科書を取り出して中身を確認する。
「真面目に授業受けてるなぁ」
　数ページ捲りながらぽろりと零す。重要な部分にはしっかりラインマーカーが引かれている。
「まあ……これなら使えるでしょ」
　そう言いながら外出用のトートバッグにそれを放り込む。
　まさか自分がまたあのキャンパスに行くとは思わなかった。
　はぁ……と郁也は溜息を吐く。正直あの大学にはいい思い出が無いのだ。
　自分がオメガ（出来損ないとはいえ）だったから。それもあるけれど、ゲイだったから。
　思い出したくもない過去を思い出しそうになって郁也は頭をぶんぶんと振る。明日はこれを渡したらさっさと退散すればいい。
　と、その時郁也のスマホから通知音が鳴る。その音から普段使わないメッセージアプリのそれだと気付き、一体誰だろう？　と思いながら覗き込むと。
『今日はありがとうございました。お仕事中にすいません』
　MASATO、と表示されたそれにはて……？　と郁也は首を傾げる。が、そこに記された文章から送り主が今日出会った彼だと察する。
　そういえばまだ登録してなかったな……と思いながら画面を開く。わざわざそんな事を送ってくるなんて、見かけによらず礼儀正しいんだな、と。
『こっちこそ急に話振って悪かった、でも教材あったから持っていく』
　文章を何度も何度も打ち直して漸く納得のいくものになったので返信する。
　誰かとこうやってメッセージアプリでやり取りをするなんていつぶりだろうか。
　送ってからしばらくスマホを見つめる。いくら何でもすぐに返事が来るとは思ってはいないが、どうしても見てしまう。
　何か変な事を送ってしまっただろうか、なんて自分が送った文章を読み返す。いや、業務連絡だけだ。その他に変な事は言っていないし、言葉としては無難なものを送っている。
　パタン、とスマホをひっくり返して、郁也は夕飯の支度をする為に台所へ向かう。いつまでも気にするだけ時間の無駄だろう。
　しばらくすると、先程と同じ通知音が一つ。嗚呼返事が来た良かった……とどこかでほっとしながら郁也はスマホを確認しにいく。
『ありがとうございます！　めちゃくちゃ救われました！　授業五限なのでお昼くらいにF棟お願いします！』
　文章を見ただけで彼の声が脳内に響いてきて、郁也は思わず笑ってしまった。文章には人間性が出るというが、彼はそのものじゃないかと。
「……テンションたっか……」
　しかしこれが大学生というものだろう。自分もかつてはそうだった。……最初の頃は。
　過去の余計な事を思い出しかけて、いけないいけない、と頭を振る。
『じゃあ十二時頃に行くから』
『待ってます！』
「はやっ」
　行く、と送った言葉に対し速返されて思わず声が出てしまった。先程は返事が来るまで少しかかったので今回もそうかと思いきや。
『あっ、今更ですいません俺南藤　雅人（なんどう　まさと）っていいます』
　名乗るの忘れてました、という言葉の後に絵文字が一つ。まさと、というのはトーク画面に表示されていたのでそうだろうな、とは思っていた。
『俺、北西　郁也。別に名前覚えなくてもいいよ』
　と打って、後ろの文章を消して。
『俺、北西　郁也』
　に変えて送る。向こうが南で自分が北、というのがどこかおかしくて。
　――多分性格も名前みたいに正反対なんだろうな。アイツ陽キャっぽかったし。
　普通に生きていたらきっと一生顔を合わせるタイプじゃなかったよな、と郁也は彼の文章を見ながら思う。
『えっっ、郁也さんて北西っていうんですか⁈　俺達合わせたら南北っすよ！　おもろ！』
　通知音とともに相変わらずのテンションで文章が返ってきて郁也は思わず笑ってしまう。コイツほんとどこまでも元気じゃん。
『ってか普通に郁也さんって呼んじゃった、呼び方これでいいっすか？』
　追撃の様に送られてきた文章に郁也は目を丸くする。こちらの呼び方など好きにすればいいだろうに。
　けれど、年下に名前で呼ばれるのも悪くない。最近自分の名を呼んでくれる人が少なくて寂しいなと思っていたところだ。
『好きに呼んでいい。俺も好きに呼ぶから』
　そう打ち込んで送る。誰かとこんなやり取りをするのは久しぶりで思わず口角が吊り上がってしまう。
『じゃあ郁也さんで！　俺の事は雅人って呼んでください！』
　すぐにそんな返事が来て、郁也は『じゃあそれで』と送り返す。
　雅人、と小さく呟くと名前とともに彼が纏っていた香水の香りを思い出す。
 ウッドとムスクが混ざったような、けれどどこかしっとりした、雨上がりの地面――ペトリコール。
　明日会った時に聞いてみるか？　と思うが昨日の今日でそれを聞くのは余りにも距離感が近い、と思って断念する。
　彼に渡した後でどこかに探しに行けばいいだろう、そう思ったのだ。 ]]>
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