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	<title>FNF - つまさきからこんにちは</title>
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		<title>土砂降りの夜に鳩を拾う</title>

		<description>

　――雨が降りそうだ。しかも土砂降り…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 

　――雨が降りそうだ。しかも土砂降りの。
　マイケルは夕闇に浮かぶ曇天の雲を見ながら思う。嵐は好きだ。常にざわめいている自分の心と思考を洗い流してくれる様な気がするから。
「……窓、ちゃんと閉めておかないとな」
　と、以前嵐の夜に窓からやってきた不躾な来訪者を思い出して呟く。
　以前休戦協定を結んでからというものの、マイケルの前に彼が現れた事は一度も無かった。
　一回くらいはどこかで鉢合わせてしまうのでは、と不安に思っていたところだが、最近はこのまま会わずに済みそうだ、と少しだけ安心していた。……ほんの少しだけ。
『マイケル……』
　耳元で幽霊が囁いているのをどうにか聞こえないフリをする。先日厄介な奴を数人警察送りにしたところだ。今日くらいは休ませて欲しい。
『マイケル……奴がいる』
『片翼の……』
　片翼の、という言葉にマイケルは眉をぴくりと上げる。片翼。その言葉に当てはまる人物なんてたった一人しかいないじゃないか。
「べ……別に、いたっていいだろ……俺に危害を与える訳じゃないなら……」
　声が震える。それに合わせて手も。
　彼……バードブレインとは休戦をしているのだ。今更何を怖がる必要がある？
　そう、自分に言い聞かせるのだが、彼の精神はそう簡単に受け入れる事が出来なかった。
　己の身体を貫く弾丸の痛み、とめどなく流れていく血。そしてそれによって一瞬温かくなり、そのまま冷えていく己の身体。
　もう大丈夫。何度言い聞かせてもあの瞬間を思い出してしまう。遠ざかっていく意識。大切な兄弟達と会えなくなるという虚無感。
　己を包もうとしてくるどろりとした不安を振り払おうと頭を振る。もう関係ない、自分と彼にはもう何もない、それだけ。
　コーヒーでも淹れよう。そう思い直した瞬間、空が一瞬眩しく光るのが見えた。
　――これはいよいよだな。
　遠くの方で聞こえる音を聞きながらマイケルは愛猫の名前を呼ぶ。こういう時は猫を膝に乗せるのに限る。
　――クソッ……。
　壊れた蛍光灯の様にチカチカと点滅を繰り返す空を睨みつけながら堕天使は舌打ちをする。
　こんな事ならもう少し早くに帰り支度をするべきだった。下らない世間話に付き合った結果がこれだ。
　空を覆い尽くすこの灰色の空が嫌いだ。それに空気を揺らす低い雷鳴も、稲妻の光も。
　きっとこの後降ってくるであろう大粒の雨も嫌いだ。雨は翼を濡らすし、不快感しか覚えないから。
　こういう日はさっさと帰るに限る。そう思いながら早歩きで自宅に向かう。
「…………？」
　いつもなら通る事のない路地裏から何かを感じて堕天使……アルマロスはそちらに視線を向ける。悪魔か？　それともあの青髪の男に纏わりついているような幽霊の類か。
　どうする。
　悪魔であれば退治しなければならない、迷える魂なら……還るべきところへ行けるように手を差し伸べるのが天使としての責務だろう。
　しかし空からは相変わらず身体を震わす音が響いている。はぁ……と小さく溜息を吐くと、アルマロスは路地裏へと進行方向を変える。見て見ぬフリをしてもいいのだが、それが出来ないのが彼の性であった。

「おい……何かいるのか……？　いるなら返事しろ」
　誰も足を踏み入れないようなそこに声をかけながら進んでいく。何もいないならそれでいい。しかし、そうではない気配がずっと漂っている。
　アー、なんだっけ、もっと優しく、だっけか。
いつぞやにブルーネットから言われた言葉を思い出してアルマロスは柔らかい口調を意識しながら周囲に声をかける。
「……もうすぐ嵐が来るぞ。お前？　お前達？　も濡れるのは嫌だろう？」
　果たして幽霊に濡れるという概念があるのか、というのはさておき。
　アルマロスという天使は今でこそ堕ちているが、元々は善い存在だ。誰かを疑うという事を知らない。皆が皆良い存在だと思っていたから。（悪魔を除く）
　だからこそ、彼は気付けなかった。彼らの様な存在が片翼の天使を陥れようとしているだなんて。
「……俺は今でこそこんな姿だが天使だ、お前たちの助けくらいはできる……」
　そう言いながら路地裏の奥まで入り込んでいくが、結局彼が感じた気配はそこで途切れてしまった。
「……？　いなくなった……？」
　ふっ、と消えてしまった気配に首を傾げていると、上から水滴が降ってきた事に気付き、空を見上げた。
　先程まで灰色だった曇天は黒と緑が混ざり合った様な淀んだ色に変化していて。
　瞬間、しまった……とアルマロスは自分がハメられた事に気付く。あの気配達は自分にどうにかして欲しかった訳ではない。自分を、どうにかしたかったのだ。
　一体どうしてそんな事をされなければならないのか。……嗚呼、アイツか。アイツのせいだ。
　クソッたれの青髪野郎。
　彼の周りを纏わりついている幽霊かそれによく似た類が仕返しをしているのだろう。そう、考えてアルマロスは盛大に舌打ちをした。
　――このままでは嵐が来る。
　それまでにはどうにかして自宅に帰りたい。そう考えてアルマロスは来た道をいそいそと戻り始めた。
　と、その時。
　空が点灯したのかと思うくらい明るく輝いた。そして数秒を待たずに空間を揺らす程の轟音。
「ヒッ……！」
　空が、天が、何よりも父なる存在が怒っているようなその音にアルマロスはその場にしゃがみ込んでしまった。
　壁にペタリと背中をつけ、膝を抱え込んでできるだけ小さくなって。
　抱え込んだ膝に顔を押し付けて空が光るのを見ない様に、雷鳴を聞かない様に。
　――これが嫌だから早く帰りたかったのに！
　そんなアルマロスに遠慮などせず空は轟く事を止めない。哀れな堕天使はその場から動けなくなってしまった。

※※※

　――雷鳴が身体に心地いい。
　マイケルは膝の上で喉を鳴らす猫を撫でながらコーヒーを一口運ぶ。
　窓に叩きつける雨音も、不定期に光る空も、そして身体の芯をも震わせるような轟音も。
　全てが合わさって一つの音楽の様だ、と思わず身体を揺らしてしまう。今度弟とラップバトルする時は嵐を参考にするのもいいかもしれない。
　日々心が落ち着かないマイケルにとって音楽の事を考えている時は少しだけ落ち着くのだ。
　だから彼は嵐が好きだった。普段から自分の脳内でぐるぐると巡る思考も、常に胸の奥底から沸いてくる不安感も、ほんの少しだけ癒えるから。
　唯一の不満があるとすれば。
『……マイケル……』
『臭い』
『殺戮……片翼……堕天使……』
　彼の周りに漂う幽霊達がずっと耳元で囁いている事だ。しかも今日はずっと堕天使、と言っている。
　先程もそれを聞かされて、今もまた同じ事を聞かされて。先程の様な震えは起きなかったが、内心あの鳩野郎には会いたいとは思わなくて。
「……アイツがいたってもうどうでもいいだろ、俺達は休戦協定を結んだんだ。それにもう俺はアイツに会いたくないんだよ」
　なぁ？　と愛猫に話しかける。猫は主人の声を聞いてか、ぐるると軽く喉を鳴らした。
　堕天使とは会いたくない。それはマイケルの心からの願いだった。あの存在が自分にした事は決して許せる事ではないし、許す気もないし。とはいえ彼が悪意で行った訳ではない、というのは理解できる。だからこそ休戦を選んだ。お互いもう二度と会わないで穏便に過ごしましょう。そう、告げたつもりだったのに。
　なのに、幽霊達はそれを許さないらしい。お前を殺した張本人なのだから憎んで当然だろう。そう言いたいのだ。
　アイツの事は放っておけ、そう幽霊達に言ってマイケルは再び窓の外に視線を移す。
　雨の勢いは先程よりも増しており、空は壊れた蛍光灯の様にずっと点滅している。
　ビシャンッと空を割る音がする度にあれはどこかに落ちたかもしれない、なんて思って。
　――嵐は好きだけど、外に行きたいかって言われたらそれは別だよな。
　そう思いながら再びコーヒーを飲む。つい最近近所にできたカフェで飲んで気になって豆を買って正解だった。あそこのカフェは雰囲気もいいし、また今度行ってみよう。
　そんな事をぼんやり考えていると、マイケルの思考を割って幽霊のとある声が突き刺さる。
『錆臭い堕天使を路地裏に放置してきた。……嗚呼、何て匂いだ……呪いと鉄錆の匂い……』
　……何だって……？
『今ならとても弱ってる……殺せる……』
「殺さないって言ってるだろ！」
　話のわかんねぇ奴らだな！　とマイケルは自分の耳元で囁くそれに言い返した。
「……路地裏に放置、ってこの嵐だぞ？　アイツだって家に帰るだろ」
　何ガキみたいな事してんだ、とマイケルは呆れた声で言う。相手は何歳かはわからないが、多分人間からしたら成人している筈だ。嵐が怖くて家に帰れないだなんてそんな。
　それに、もし万が一嵐が怖かったとしても、どこかに避難するだろう。それもできないような間抜けには見えなかった。
『堕天使はこの天気は動けない』
　――は？　何で。
　幽霊の言葉にマイケルは目を丸くする。傘がなくて動けない、というのであればわかる様な気もするが。
　どうする、どうすればいい。
　マイケルの中に新たな不安が生まれてしまう。別にあの空飛ぶネズミ野郎の事なんて放っておけばいいのだ。幽霊が特別何か悪さをした訳ではないようだし。
　しかし、そう思っても心のどこかで謎の「もしかしたら？」が生じてしまう。
　もし、土砂降りの雨に当たって体調を崩したら？　もし、雷に当たったら？　もし……。
　あー……クソッ……。
　眉間を揉みながら天を仰ぐ。一体全体何だって自分が。
　いつもぐるぐると渦巻いている思考が更に渦巻いていく。あんなクソ野郎放っておいていい、という自分としかしだからと言って見捨ててもいいのか、という良心。
　マイケル、という男の根底にはこの「善」がいるのだ。いつだって。
　それが例え自分の命を奪った堕天使が相手だったとしても。
「……で。お前達はあの空飛ぶネズミ野郎をどの路地に置き去りにしてきたんだ？」

　※※※

　濡れた服が重い。
　雨水を吸い込んだ服から翼に浸透し、しっかり吸い込んで翼も重たくなっている。
　もう嫌だ、何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ、と瞳から血涙が流れ、服を汚していく。
　なんて惨めなんだろう。アルマロスはびしょ濡れであろう己の姿を想像して更に涙を零す。
　この状態でエンジェルハンターとやらに遭遇してしまったらひとたまりもない。きっとあっけなく殺されてしまうだろう。否、人間に天使（堕天使とはいえ）はそうそう殺せるとは思えない、が相手が悪魔だった場合は話が別だ。
　これも自分が犯した罪の代償なら仕方ないか、と諦めて溜息を吐く。
　青モップには結局許された訳ではないし、天や神もアイツから学ぶべき事がある、だなんて言って天に戻してくれる訳でもない。
「畜生……」
　そう、呟いたその時だった。
「ハ⁈　何だこの布の塊は」
　聞き覚えのある声にアルマロスは思わず顔を上げそうになる。嘘だ。こんな所にいる訳がない。
「呪いと鉄錆の匂い、か……。俺にはわかんねぇけど、コイツらには何かわかるんだろうな」
　そう呟きながらマイケルは布の塊と化しているアルマロス……と思しき存在に声をかける。
「アー……えぇっと……お前、バードブレインでいいんだよな？」
　赤い帽子に、チラリと見える十字架のピアス。服の隙間からは大火傷の痕が確認できたから恐らくあの堕天使であるのは間違いない、が。
　声をかけても微弱にしか反応が返ってこず、マイケルは予想外の事に困ってしまう。おいおいどうしたらいいんだこういう時は。
　想定外、の状況に対処するのは得意ではない。下手したらパニックを起こしてしまう可能性だってある。
　一旦マスクを下ろして深呼吸をする。湿った空気と雨がコンクリートを打った時の匂いで肺を満たすとマスクを戻してアルマロスの前にしゃがみこむ。
　万が一、を考えて武装のバットを持ってきたがこの様子だと使わなくて済みそうだ。
　ぼう、とマイケルの瞳がアルマロスを照らす。その光に気付いて布の塊がようやく身体を動かした。
「……どこの誰かは知らないが、殺るなら殺っちまえよ」
「そんな事したらお前と一緒になっちまうだろ。御免だね」
　その声にやっと目の前にいる存在に気付いたアルマロスは慌てて顔を上げた。
「……マイケル……？」
「よお、バードブレイン。……その、元気……そうには見えないな？」
「……わざわざ嘲りに来たのか？　暇だな」
「そんな事する訳ないだろ。だったら家でコーヒー飲んでる方が全然有意義だ」
　そう言いながら周囲を確認する。この悪天候も相まってか、周りには人間やその他の生物はいないようだ。
「アー……その、何だ……幽霊達がよ、お前をここに放置したって得意気に報告してきたから……」
「嗚呼……アイツらはそういう……」
　じと、とした目がマイケルを見上げる。お前が首謀者か？　とでも言いたそうだ。
「言っておくけど、俺はそんな事指示してないからな。折角この天気を楽しんでたのに」
「……正気か？」
　この天気を楽しむ？　という気持ちと、それなのに自分の元に来たのか？　という気持ちが入り混ざった声で一言。
「どうだろうな。正気じゃないのかもな」
　そう言ってから更に小声で「正気なんて最初からないさ」と呟くがアルマロスの耳には届かなかった。
「ッハ、だろうな。幽霊の声を信じてここまで来るなんて」
「置いてってもいいんだぞ」
　晴れるまでそのままそこで布の塊やってんだな、とマイケルが言い放った瞬間、しばらく収まっていた雷鳴が轟き始めた。
「ッッ……！」
　その音にアルマロスは身体をビクッと震わせる。
「……お前、もしかして……」
　その様子にマイケルは何かを察して目を丸くした。いやでもお前この前こういう天気でも俺ン家侵入したじゃん。
　堕天使はこういう天気は動けない。
　幽霊が先程言った言葉を思い出す。前回はきっと「神からの導き」とやらが降りてきたから動けたのだろう。
「あー……まあ、何だ……このままだともう一雨来そうだし、嵐が過ぎるまで俺の家に来いよ。服も乾かしていいからさ」
　相手は自分を殺した相手なのはわかっている。休戦であって和解をした訳ではない。けれど。
「……お前は……お節介がすぎる」
「だからお前に殺されたんだろうな」
　言いながらくしゃりと顔が歪むのを感じる。弟の彼女を庇わなければ死ぬはずはなかった、と堕天使にも言われたがじゃああそこで動かなかったら彼女はどうなっていた？　弟は？
　――ああするしかなかった。
　彼女を喪って悲しみに暮れる弟を見たくない、だから動いた。その決断を間違いだとは思わない。
「……それについては謝ったじゃないか……」
「人一人殺しておいて、謝罪の手紙で許されるなんて甘い話があるかよ」
「て、手書きだぞ……⁈」
「当たり前だろうが。本来なら直々に頭下げに来んだよ」
　このままでは以前の様に言い争いが始まるな、と察したマイケルはそれ以上の言葉を飲み込んで、代わりにアルマロスへ手を伸ばした。
「ほら、立てよバードブレイン」
　そのままだとケツから根が生えるぞ。と言うと、それを想像したのか、思いのほかスッとアルマロスが立ち上がったので、少しばかり笑ってしまった。

 ※※※

「お前……ほんっとにずぶっずぶだな……濡れ鼠じゃないか」
　何時間あそこにいたんだよ、とマイケルは玄関にアルマロスを招き入れて（俺の家にはここから入るんだぞ、としっかり付け足して）バスタオルを放り投げる。いくら堕天使とはいえ、あれだけの雨に当たって冷えた身体では体調を崩してしまうかもしれない。
　アルマロスはというと、マイケルから投げられたバスタオルを掴み、そのままそれを凝視していた。
「？　何やってんだよ、それで軽く拭いてから入れよ」
　びしょびしょのままは無理だからな、と言われようやく身体を拭き始める。
　あの路地裏からマイケルの自宅まで、二人は会話という会話を一切せず、唯々無言のまま歩いて帰ってきたのだ。
　途中、雷が鳴って足が止まる度にマイケルも止まり。おいおいマジかよ、なんて言われながらもどうにかここまで来る事ができた。
　仕方ないな……と溜息を吐きながらマイケルは自室に戻り、アルマロスが着られそうなスウェットを取り出す。ぱっと見た感じ、自分と体格差は無さそうだが果たして翼がしまえるだろうか。
　まあ最悪背中の部分を切っちまえばいっか、なんて思いながらそれを持ったまま今度はシャワールームへ。
　お湯がすぐに出る様にしてからバスタオルとスウェットをそこに置くと、玄関に置いてきた堕天使の様子を見に行く。
「……拭けたか？」
「ん？　あ、あぁ……」
　未だに心ここに非ず、な様子ではあるが先程よりは良くなっているだろうか。
「……シャワー浴びてこいよ、そのままじゃあ気持ち悪いだろう」
　そう言ってマイケルはアルマロスの手を引きながらシャワールームに通す。彼に任せていたら夜が明けてしまうと思ったのだ。
「シャンプーとかは中にあるから。バスタオルもそこに置いた、スウェットは着にくかったら呼んでくれ」
　そう言ってシャワールームを立ち去ろうとすると、マイケル。と呼ぶ声。
「その……何で、ここまで……」
「何で、って家に連れて帰ってきちまったからな、面倒くらいは見るさ」
「そ、そうか……」
　ちら、と目の前にいる青に視線を移す。こちらに背を向けているので彼がどういう表情をしているのかすぐにはわからなかったけれど、今は本当に唯々情けをかけてくれただけ、らしい。
　悪い、借りる。とだけ残してアルマロスはシャワールームのドアを閉じた。
　しばらくして、シャワーの音が響いてくるのを聞いてマイケルはほっと一息吐く。
　ぐるみゃう、と足元に身体を擦り付けてくる愛猫を撫でながらアルマロスが出てくるまでに何か飲み物でも用意するか……とキッチンへ向かった。
　――随分ぼんやりしてたな……。
　シャワールームに向かうアルマロスを思い浮かべながらそんな事を考える。あの表情は人から……特に自分から親切にされる事に戸惑いを覚えているような。
　マイケルとて彼に親切にしてやろう、という気持ちは無い……と言い切る事はできないけれど、積極的にと言われると複雑な気持ちにはなるのだが。
　殺した相手と殺された自分。何をどう償ってもその事実は変わらないのだが、かと言って改心しようとしている相手を無碍にするのもどうなのだろうか。
「わかんねぇよなぁ……」
　自分の膝元をかりかりと引っ掻いてくる猫を抱きあげてそのふわふわとした身体に顔を押し付ける。
　ふすーっ、とふわふわを吸うとどこか心が落ち着いて。（吸われたふわふわの毛玉は虚無顔を浮かべていたが）
　しばらく吸っていると、もういいだろと言わんばかりに猫が身体を捩るので悪い、と声をかけてから静かに下ろしてやる。
　顔面についた猫の毛を払いながらマイケルは考えを切り替える。
　今はアイツと自分との関係よりも、シャワーを浴びたアイツに何を飲ませるのかが重要だ。
「コーヒー……飲むのか……？　いや、それとも天使だから紅茶とか？　それともココアか……？」
　何を飲むのか、どういうのが好みなのか。そういう事何も知らないな、と思いながら一番手前にあったココアに手を伸ばす。
　――もしかしたらもっとお互いの事を知った方がいいのかもしれないな。……いや、無いか。
　正直なところ、休戦協定を結んだあの日で彼との縁は切れたものと考えていた。
　距離を置きたいのは本当の事だし、できればもう自分の人生に関わって欲しくない。彼が天国に戻れるようになろうがなるまいが、巻き込まないで欲しい。そう、強く願っていたのに。（堕天使曰く、天国に戻るためには自分から色々学ばないといけないらしいが。だとしたら随分勝手な話である）
　なのに何で。
　何で今、マイケルは彼の飲み物の好みなんて考えているのだろうか。
「情が沸く、ってこういう事を言うのかよ……」
　クソッたれ、と零したあと盛大な溜息を吐いた。

「……訳がわからない……」
　頭からお湯を被ったままアルマロスは呟いた。どうして今自分はこんな事をしているのか。どうして、マイケルの家にいるのか。どうして素直についてきてしまったのか。どうして。
　マイケルは自分を嫌っている。それは十分わかっているし、その理由だってわかりきっている。
　時々、彼が迷惑そうな、不安そうな、こちらを信用していない目で見ているのはとっくに気付いている。
　自分だってできる事ならもう会いたくないと思ってはいる……が、天が、神が彼から学べと言ってくる。そうでもしないと天国には戻れないと言わんばかりに。
　――そもそも、俺は本当に戻れるのか……？
　導き、が来ているという事は見捨てられてはいないという事だろうけども、それも時間の問題ではないだろうか。
　そんな事を思いながら翼を広げる。何度洗ってもすぐに穢れが溜まって重たくなってしまうそこを優しく泡立てて。
　穢れとともに抜けてしまった羽根を脇に退かしながら溜息を吐く。ほんの少し前までは真っ白で綺麗だったのに。
　そのまま全身を洗ってからシャワーを止める。先程まで冷たかった手足が温かくなったのを感じてアルマロスは安心したように微笑んだ。
「……あ」
　扉を開けてアルマロスはここが自宅ではない事を思い出す。ここから出るにはまず翼を拭かなければならない、が翼を広げてここを水浸しにする訳にもいかない。（そんな事をしたらマイケルに追い出されてしまうかもしれない）
　スウェットが着にくかったら呼んでくれ、とは言っていたけれど、翼を拭く手伝いをしてくれというのは違う気もして。
　自宅の浴室であれば遠慮なく広げて羽ばたいて乾かせたというのに。
　それに恐らく翼をまとめる為のバンドもびしょ濡れだろう。シャワーを浴びていたこの時間に乾いているとは到底思えない。
　さてどうするか。とりあえず下半身を拭いて、マイケルが用意してくれたスウェットを履く。
　しばしの間考えて。このまま上裸で出て文句を言われるか、それとも恥を忍んで彼に翼を拭く手伝いをしてもらうか。またはバンドに代わる何かを提供してもらうか。
「クソッ……」
　自分で挙げた選択肢なのに余地がない事に気付いてアルマロスは舌打ちをする。いっそ上裸で歩き回ってやるのもいいと思ったが、今回はマイケルに借りがある。失礼を返す訳にはいかないだろう。
　しばし考え込んで、それでもいい選択肢が思い浮かばなくて。
「マイケル……アー……その……」
　翼を拭く手伝いをしてくれないか、やっとの思いで絞りだした声は喉に張り付いた様な、ヤケに掠れたそれだった。

「……何だって？」
　マイケルは自分の耳に入ってきた言葉を疑った。確かあの堕天使の声がしたのだが。
　しかも自分に何かを頼んでいたような。冗談だろ？　と呟きながらマイケルは声のする方へ向かった。
「呼んだか？　ってオイ、上何か着ろよ」
「そうしたいのはやまやまなんだが」
　その……と申し訳無さそうに濡れた翼を見せる。水を吸ってずっしりと重そうなそれからは止まる事なく水滴が滴っていて。
「その……拭くのを手伝ってくれないか……」
　こんな事言いたくなかったんだが。と余計な一言を付け足しつつ、アルマロスは申し訳なさそうな、でもどこか不服そうな声でマイケルに頼んだ。
「いや、別に手伝ってくれなくても構わないんだ。ここで思いっきり羽ばたかせてもいいならな」
「良い訳ないだろ。シャワールームが羽根だらけになっちまう。鳥小屋にする気か？」
「手伝ってくれなかったらそうなるな」
「わかったわかった」
　鳥小屋になるのだけは勘弁、とマイケルは手にしたバスタオルを広げ、背中を向けろと指示をする。
　素直に従ったアルマロスはマイケルの方に背中を向け、拭きやすい様に翼を少しだけ広げる。
「っ…………！」
　その背中を見た瞬間、マイケルは言葉を失ってしまった。
　首から背中に広がる大火傷の痕、ケロイド状になってしまっている皮膚が痛々しい。
　そして、本来もう一枚あったであろう翼の所から突き出ている、翼の根本の骨。
　そこも既に真っ黒に変色してしまっていて。
　――な、なんだよこれ……。
「それは、俺が堕天した時に受けた罰だ」
　自分の背後でマイケルが息を飲んだのに気付いてアルマロスはそう言葉をかけた。
　悪魔ではなく誤って彼を殺してしまった瞬間、彼の上で輝いていた光輪が溶け、アルマロスの身体を燃えるような熱さで溶かしていったのだ。
そのせいで彼の翼は落ち、彼自身想像を絶する痛みに全身を覆われてしまう事になって。
　真っ白でふわふわで自慢の翼も片方は焼け落ちて、もう片方は色がくすみ、どういう訳か鉄錆の様な穢れが溢れる様になってしまった。
「……痛みとかは」
「……さぁな」
　遠い目でそう言うアルマロスに、マイケルはどう言葉をかけていいものかと悩んでしまう。
　お前のせいで俺の人生滅茶苦茶だ、とかつて彼に言われたが、それはマイケルとて同じなのだ。
　自分がずっと苦しんでいた期間、きっとコイツも苦しんでいたのだろう。自分が犯した罪に、そしてそれによって与えられた罰に。
「アー……そっか、その、何だ……俺が言うのもアレだけどよ、痛かったら痛いって言ってもいいと思うぜ」
　背中を優しく拭きながらそんな言葉をかけてしまう。
「ハ？　お前がそれを言うのかブルーネット」
「だから俺が言うのも、って言っただろうが」
話をちゃんと聞けよバードブレイン。と返せばフン、とだけ返ってきて。
　これ以上何か言われたら拭くの止めてやるぞ、と思っていたがアルマロスはそれを察したのか静かになってしまった。
　大人しいのも気味悪いな……と思いつつも、背中の傷や再起不能であろう翼の根本を見るとどうしても情が沸いてしまう。
　バスタオルで翼を挟んで優しくとんとんと叩いていく。堕天使の翼の拭き方なんてわかんねーよ、と零しつつも彼が痛みを感じない様に最大限の手つきで。
「いつもはどうやって乾かしてんだ？」
「自宅の浴室で羽ばたかせて終いだ」
「は？　それだけ？　この……鉄錆みたいなのは？」
「それは俺の穢れだから落ちる事はない」
「そ、そっか……」
「……元の翼は純白で柔らかくて軽くて、何より高速で飛べたんだ……俺の誇りでもあった」
　昔を懐かしむような声でアルマロスは己の翼について話し出す。マイケルはコイツが自分の事を話すのは初めてだな、と思いながら静かに相槌を打つ。
「……天は……俺にもう戻ってきて欲しくないのかもな……」
「何でそう思うんだ」
「わからないんだ。何もかも。俺がお前を殺したのが悪い、のはわかってる、重罪だからな。でも俺は悪魔を殺そうとしたんだ。悪魔は……人を誑かすし、何より魂を食ってしまうから」
「だからGFを殺そうとしたのか？　俺の弟が彼女に殺されると思ったから？　奴らがどういう関係なのかも見ずに？」
「それは……！　悪魔に操られてる、って可能性もあっただろ……。少なくともあの時の俺はそう思ってたんだ……」
「今はどうなんだよ」
「今は……今はその、わからないんだ……」
　マイケルが拭いていた翼がしょも……と下がってしまったのを見て、彼の言葉は本当なのだと感じて。
「お前を生き返らせたのは天ではなく悪魔なんだろう？　天は俺が殺してしまったお前に救いの手を差し伸べなかった。でも悪魔は差し伸べた。……という事は悪魔が正義だった、という事になるんだろう？　でもそれは……それは……」
　あぁあ、と呻いたアルマロスの傍に良からぬ霊達が吸い寄せられているのが見えて、これ以上は喋らせたら駄目だと判断したマイケルは余分に持ってきていたバスタオルをアルマロスの頭に被せた。
「急に何すんっ……」
「これ以上もう考えんな。お前が躍起になると変な霊が集まって面倒な事になんだよ」
「そんなの俺の知った事じゃ……！」
　被せたバスタオルの上からわしゃり、とアルマロスの頭を撫でてから。
「お前の故郷の考えなんてこれっぽっちもわかんねーけどさ、戻って来てほしくなかったら堕天じゃなくて地獄に落とすだろ。でも今の状態でここに留めてる、って事はよ……お前にもっとちゃんと冷静に考えろって言ってるんじゃねぇの」
　その為に俺を使うのは御免だけどな、と付け足して目の前の堕天使の反応を見る。いつもの彼なら何かしら言い返してくるのだが。
「何を考えればいいのかわからないんだ。何かを見落としているのかもしれない、でもそれが何かもわからない」
　翼をますます下げてしまったアルマロスを見て、これは大分行き詰ってんな、とマイケルは判断する。
　この様子を見るに、彼自身本当に「善い」存在になろうとしているのだろう。だが、それを理解しようとするには彼自身が捻じれて歪んでしまった。
「まあゆっくり考えていけよ。そういうのは焦って考えたって答えなんか出ねぇんだから」
こんなもんか、と拭き終わった翼を見ながら呟く。アルマロスが言った通り、彼の翼に付着している鉄錆の様な穢れは拭いても拭いても落ちる気配がしないのでそのままにせざるを得なかった。
「マイケル、その……翼をまとめるバンドがあった筈、なんだが」
「あぁ……あれか。悪い、お前の服と一緒に洗濯機にぶちこんだ」
　びしょ濡れだったからな、と言えばそうか、と返ってきて。
「ちょっと待ってろ、そのスウェット着られる様にしてやるから」
　そう言ってマイケルはリビングへハサミを取りに向かう。
「情に流されっぱなしだな」
　自嘲気味に呟いて。アルマロスに寄せられたのか、部屋に妙な幽霊が増えていたが、今ばかりは見なかった事にする。
　以前出会った時よりも大分大人しい堕天使に驚くばかりだが、それは恐らく彼が本当に自分の事を考えるようになったからだろう。
　混乱しているのだ。何もかもに。
「まあ……俺もわかんねぇけど」
　あの堕天使がどうすればいいか、なんて。自分の人生ですら迷っているというのに。
　そんな事を思いながら洗面所に戻る。アルマロスは相変わらずの様子で、そんな彼の周りに先程の幽霊達が近寄っているのを虫を払うように手で追い払う。今の彼に取りつかれたら絶対面倒な事になるからだ。
　そして持ってきたハサミでスウェットの背中部分をざっくりと切ってしまった。どうせ近所で買った安物だ。もう一度買い直せばいい。
　翼の位置いい加減に切っちまったな、と思いつつアルマロスに「着てみろ」とそれを渡す。
　え、と目を丸くしているアルマロスにもう一度着てみとって、と促すとようやくもそもそと着始めて。翼を通すのに苦戦している様子だったのでそれは助け舟を出して。
「お、適当に切っちまったけど丁度だったな」
　先程ハサミで切った部分にアルマロスの翼が綺麗に通ったのを見て、マイケルはどこか満足そうに言う。これなら窮屈な思いをしなくて済むだろう。
「あ……」
　ありがとう。
　蚊の鳴くような、けれどしっかりした発音でアルマロスは礼を言う。
　本当ならこの男にそんな事を言いたくは無いのだが、今回ばかりは何から何まで面倒をかけてしまっている。それは否定できない事実で。
「おう」
　予想していなかった言葉にマイケルは驚いて気の抜けた返事をしてしまう。コイツ礼が言えるんだ⁈
「っ……アー……えぇっ、とだな、お前の服はまだ乾いてない、ってのともう時間的に遅いから泊めてやる、後向こうであったかい飲み物を用意してる所だけど……ココアでいいか？」
「あ、あぁ……」
「じゃあ先に向こう行ってるな」
　そう言って、マイケルは洗面所を後にした。

　マイケルがリビングに戻って暫くしてからアルマロスが恐る恐る、という足取りでやってきた。
「お、やっと来たな」
「髪を乾かしてただけだ」
「まあそれはともかく、ほれ」
　アルマロスをソファに座らせてココアの入ったマグカップを渡す。
「……泊まってけって言ったはいいけど、俺の家他に寝る所ないからソファでもいいか？」
　足元に身体を擦り付ける愛猫を撫でながらマイケルは問う。一瞬自分がソファで、アルマロスを自室のベッドに……とも考えたのだが、それは得策ではないなと瞬時に考え直したのだ。
　それに、マイケルの部屋にはかつて自分が殺された日の新聞の切り抜きや現場で拾ったアルマロスの羽根等がファイリングされたスクラップブックがある。もし万が一それがこの堕天使の目に入ったら気を悪くするだろう、と思ってしまい。
「……別に、俺はどこで寝たって構わない。床でもいい」
「床はコイツの毛だらけだからお勧めはしないぜ」
　な？　と猫に問いかけるとみゃう、と短い返事が一つ。
　マイケルの愛猫はアルマロスの方を向くと、琥珀色の瞳でまっすぐに彼を見つめる。
　猫、という生き物にそこまで熱烈に見つめられた事のないアルマロスはそれが一体何を意味するのかがわからなくて戸惑いながらマイケルに視線を移す。
「な、何が言いたいんだこの猫は……」
「さぁな？　お前が安心できる存在がどうか見極めてんじゃねぇの」
　猫ってのはそういうのわかるらしいしな、と続ける。様子を見るにどうやら敵意は持っていないらしいが、目の前にいる彼が人間ではないという事には気付いているようだ。
「安心できるかどうかは知らんが、猫に対して敵意は抱かないぞ」
　無害で可愛いじゃないか、と言うアルマロスにマイケルは思わず目を丸くしてしまう。コイツに動物を可愛いと思う気持ちがあったなんて。
　その言葉を聞いたからか、アルマロスの足元にいた猫はふんす、と鼻を鳴らしてからソファに飛び乗って。
　そしてそのままアルマロスの身体に己の身体をピタリをくっつけて丸くなってしまった。
　ふわふわの身体が自分の横にピタリとくっついているその感覚にアルマロスは思わず胸がドキリとしてしまう。誰か――否、この場合は動物だが――に認められた様な気がして嬉しい、と感じたのだ。
　ふふ、と思わず微笑んで自分の横にいる毛玉の頭をそっと撫でる。眠っている筈のふわふわが喉を鳴らすのを聞いて更に嬉しくなる。
　口角を少しだけ上げながらココアを口に運ぶ堕天使の姿を見て、マイケルの口角もいつの間にかほんの少しだけ上がっていた。
　愛猫が身体を寄せるに値する、と判断したのだ。猫を判断基準にするな、とまともな人間は言うのかもしれないが生憎マイケルは「まとも」な部類の人間ではない。だから、ほんの少しだけこの堕天使の事を理解してもいいのかもしれない、と思えた。
　愛猫を挟む様にしてソファに座ったマイケルは自分用のマグカップに淹れたココアを飲みながらアルマロスとの時間を過ごす事にした。お互いに何か会話をする訳でもなく、いつもの様に言い争いに発展するでもなく、唯々ゆっくり無音の空間を共有する、それだけ。
　交互に間にいる猫を撫でて、ココアを口に運んで。何か会話をする必要があるのはお互いにわかっていたが、いざこういう場になってみると一体何を話せばいいのかわからない。
　アルマロスから会話を振ったところで何かの拍子に地雷を踏みぬくのはわかっているし、かと言って雑談をする程仲がいいわけでもない。
　それはマイケルも一緒で、自分からアルマロスに振る話題は特に無いと思っていて。
　そんな二人の間を猫はくるくると回ってはマイケルの膝に乗ってみたり、はたまたアルマロスの膝に乗ってみたり（膝に乗った瞬間、アルマロスが嬉しそうに微笑んでいたのをマイケルは目撃してしまった）して、距離を取り持ってくれていた。
「お前さ、普段は一人で暮らしてんの」
「そうだが」
「……友人とか、は？」
「いるわけないだろう」
「なんだぼっちか」
「貴様何が言いたいんだこのクソッたれ青頭め」
　ギッ、とマイケルを睨むアルマロスの視線を受け流しながら、小さくアー……と呟いてから。
「お前がちゃんと距離を保って、尚且つ休戦を守ってくれるのなら、少しだけ……ほんっとうに少しだけなら仲良くなってやってもいいぜ」
「……は……？　急に何を言い出すんだ」
　お前は俺が嫌いなんだろう？　と不思議そうに首を傾げる堕天使を見ながら、まあ……そうなんだけどよ、とマイケルは答える。
　嫌いだけど。コイツのせいで人生滅茶苦茶だけど。
「平和的な関係を申し込んでんだよ」
「……もしかして脳ミソの中まで青いのか？」
「てめぇの脳ミソよりはマシな筈だぜ」
「平和って言葉の意味知ってるのか？」
　モップ野郎。何だとバードブレイン。青の毛むくじゃら。鳩野郎。顔面パンチのクソッたれ。それはお前が悪いんだろうが自業自得だ。
　そんな言葉の応酬を繰り返している内に二人の息は上がっていく。アルマロスの膝に乗っている猫は戸惑った表情で二人の顔を交互に見つめている。
「……わかった、俺は善良な天使だ。人間の願い事には寄り添うように心がけている。つまり、今回はお前の言う事を聞いてやってもいい」
「ハ、人を躊躇なく殺そうとする奴のどこが善良な天使、だ」
　ぐみゃう。
　主人と堕天使が何度目かわからぬ言葉のプロレスを始めようとした瞬間、猫がいい加減にしろと言わんばかりにうめき声を漏らす。猫としても己が心地良いと思っている空間に罵声が響くのは好まないのだろう。
　アルマロスはそんな猫の頭を優しく撫でてから深い溜息を吐く。これはマイケルの為ではなく、膝の上に乗っているこの温かいふわふわの生き物の為、と己に言い聞かせて、改めて。
「その申し入れ、受け入れてやってもいい」
「んっとに素直じゃねぇな」
「うるせぇ」
　そう言って会話は終了し、その場に沈黙が訪れる。が、以前までの気まずさは少しだけ緩和した様な気がして、二人ともどこか落ち着いてしまっていた。
　勿論、アルマロスは未だにマイケルが何故あんな申し入れをしてきたのかわからなかったし、マイケル自身も言ってからずっと自身に重くのしかかっている不安が少しだけ緩和した様な気がして。
　そんな二人に満足したのか、猫は満足そうに喉を鳴らしていた。

※※※

　休戦協定かつ、平和な関係を築く事になった後、マイケルは自室で、アルマロスはソファで夜を過ごし。
　翌朝、アルマロスは己の腹部に何やら重みを感じて目を覚ました。窓から差し込む朝日が眩しい。
「何だ、お前か……」
　腹部にふわふわの猫が乗っているのを見てアルマロスは思わず微笑んでしまう。いつもであれば朝が来るのと同時に罪悪感に襲われ、もう一度ベッドに潜り込みたくなるのだが今は違った。
「俺のところで寝ていたのか？　マイケルの奴悔しがるだろうな、愛猫がこっちにいるって知ったら」
　ふふ、と微笑みながらこちらをじっと見ている猫の頭を撫でる。こんな朝を迎えるのは随分と久々な気がする。
　そんな事を思っていると。
「いないと思ったらそこにいたのか……！」
　起きたらいなくて焦ったんだぞ、と言いながらマイケルがリビングに姿を現わした。特徴的な青い髪が寝ぐせであっちこっちに跳ねているその姿にアルマロスは思わず笑ってしまった。
「おい何だ？　人の猫を奪った挙句に朝からこっち見て笑うって」
「奪ってない、起きたら腹の上にいたんだ。それに、その青い鳥の巣を見たら誰だって笑うだろ」
「なんでそっちに行っちまうんだよ……」
　心外だ、と言わんばかりに溜息を吐くが、猫というのは気まぐれな生き物である。と、同時に自分が安心できる存在を見分ける事ができる、とも。
「……まあ、お前の事気に入ってる、のは事実なんだよな……」
　クッソ悔しいけど、とマイケルは付け加えて。
「お前の服も乾いただろうし、朝飯食ってけよ」
「朝は食べないんだ」
「はぁ⁈　本気で言ってんのか？」
「お前だって朝食べなさそうな顔じゃないか」
「どういう顔だよ」
　――確かに食ってなかったけど。
　朝どころか一時期食事自体を採らない事があった、というのは黙っておく。何も食べていないという事を知った彼の弟が必死に食事を採るように説得して今に至る。その時に散々朝はちゃんと食べないと駄目だよ！　とビービー言われたのを思い出してしまった。
「そもそも俺は天使だ、だから食事は滅多に必要ない」
「それは天使の話だろ。お前は堕天使だ」
「なっ……それは関係ないだろ！」
「かもな。でもよ、人の善意ってのは受け取っておくもんだぜ」
　お前はそれを知らなすぎるからな、と付け足すとアルマロスは黙ってしまった。
　人の善意。それを知ったら自分ももっと「善い」存在になれるのだろうか。だったら。
「仕方ないな」
「素直で何より」
　そう言いながらマイケルはキッチンへ向かう。昨晩も思ったが、こうやってあの堕天使をもてなすのは何だか変な感じがするものの、以前まで彼に感じていた嫌悪感がほんの少しだけ薄れているのを感じて。
「お前が煩いから朝は食べるがそれが終わったら帰る」
　いつまでも居座る訳にはいかないし、というアルマロスにマイケルはそうか、とだけ返す。
　もっと居てくれ、というのも変な話だしマイケル自身いつ賞金稼ぎとしての依頼が入るかわからない。
　またいつでも来いよ、というのも何だかなと思い次の言葉は結局見つからず仕舞いだった。

「じゃあな。……今度は嵐の日に外に出るんじゃねぇぞ」
「好きで出た訳じゃない」
「あー……後な、幽霊達の中にどうやらお前に恨みがあるのがいるみたいだから気をつけろよ」
「……お前にならわかるけど、どうして」
「恨みってのは連鎖すんだよ、覚えておけ」
　そう言ってマイケルは肩を竦める。元はと言えば今回の出来事は結局アルマロスが起こした事が巡り巡って己に返ってきた、というだけなのだから。
「そうか……」
　そう言って、アルマロスは渡されたコートを羽織る。昨晩あんなに濡れていたそれがすっかり乾いていて感動すら覚える。
　起きた後の二人の朝食はそれは静かなものだった。時折いつもの言い争いに発展しそうになるとそれを止めるかの様に猫が二人の足元で抗議をして。
　マイケルが焼いた食パンとコーヒーを綺麗に食べて。久々に口にする朝食もいいな、なんて思ってしまって。
「なあ、マイケル。そういえばあのスウェット……」
　弁償を、と言いかけると待ったがかかり、思わず首を傾げてしまった。
「あれ、お前用に取っておくわ」
「は……？　その必要あるか？」
「あるかもしれねぇだろ」
「やっぱり貴様の脳ミソも青くなってるんじゃないのか？」
「だったとしたらそりゃあお前に殺されたせいだね」
「平和的な休戦協定、じゃなかったのか」
「お前の態度次第だなって今思った」
「クソッたれ」
　何なんだよほんとお前訳わかんねぇ、とアルマロスは小声でぶつくさと言いつつも、こういうのも悪くない。なんて思ってしまったその瞬間。
「あー……じゃあな、アルマロス」
「⁈」
　唐突に呼ばれた自分の名に、アルマロスは目を丸くしてしまった。コイツ俺の名前知ってたんだ。いや、手紙に書いたから知らないって事はないか。
　マイケルが呼ぶときは大抵「バードブレイン」だの「鳩野郎」だのと蔑称だったからアルマロスは自分はよっぽど嫌われているんだな、と思っていたのだが。
「何鳩が豆鉄砲食らった顔してんだよ」
「いや……何でも、ない」
　ちょっとだけ、嬉しいと思ったんだ、とは言わずに。
「じゃあな、マイケル」
　それだけ言って、アルマロスはマイケルの家を後にした。
自宅への帰り道の途中でマイケルの弟とその彼女を見かけたが（彼もこちらを見ていたので気付かれただろう）マイケルに免じて見なかった事にして。
　家に帰ったら今回の事を天に報告してみよう。もしかしたら何か進展があるかもしれない。

「よお、お二人さん」
「今！　来る時にあの堕天使いたけど！」
「嗚呼……でもアイツ何もしなかったろ？」
　一方マイケルの方は家に着いた彼の弟とその彼女が道中で見かけた堕天使の事を報告していて。
　兄の身に何かあったら、と慌てて来たのに当の本人は何だかご満悦な表情で、彼女共々顔を見合わせて頭の上に「？」を浮かべるのだった。



　土砂降りの夜に鳩を拾う


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