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	<title>お日様は夜の蓮を覆う - つまさきからこんにちは</title>
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		<title>追いつく太陽</title>

		<description>「くそ……」
　向日　葵と再会してしまっ…</description>
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			<![CDATA[ 「くそ……」
　向日　葵と再会してしまったあの日から蓮の表情は暗いままだった。
　会社に行ってもその状態なので周囲は彼が仕事で大きなミスをしたのでは、等とあらぬ噂で盛り上がっていたが、仕事自体はいつも以上の出来だった。
　蓮自身驚いたのだが、仕事に没頭することによって葵の事を考えずに済んだのである。
　あの時たまたま会っただけ、もう金輪際会う事はない。そう自分に言い聞かせてはいるものの、灰色の靄の様なものがずっと胸の中で渦巻いている。
　――俺はずっと覚えてたのに。
　先日言われた言葉を脳内で反芻する。
　忘れてくれていたらどれだけ良かっただろうか。
　自分という存在を忘れて、新しい地で今まで通りに暮らして欲しい、というのは余りにも傲慢な考えだ。
　……傷つけたのは俺なのに。
　そう、高校生の時に保身を優先して彼の事を考えずに脊髄反射で発した言葉が、「学校」という閉鎖空間で平和的に暮らしたいという気持ちを優先した結果、蓮は葵を酷く傷つけてしまったのだ。
　それこそ、彼が学校に来られなくなってしまうくらいには。
　先日会った葵の顔を思い出して、蓮はぶるりと震えてしまう。
　声色こそは優しくてかつての彼を思い出させるそれだったが、本心は何を考えているのかわからなかったのだ。
　――絶対俺に対してキレてる、俺だったら多分復讐してやりたいって思うもんな……。
　今後一体どんな事が待ち受けているのだろう。葵に、何を言えば許して貰えるのだろうか。
　否、許してもらおうという考えがもう根本的に間違えているのかもしれない。
「わかんねぇ……何もかも……」
　何が正解なのかもわからない。そう、呟いた瞬間蓮のスマートフォンから短い通知音が鳴る。
　その音にビクッとしながら画面を見ると、何とそこには「向日　葵」の文字が。
　うわうわうわ！
　その名前を見ただけで吃驚してしまった蓮は思わずスマートフォンを裏返しにしてしまう。何も見ていない、何も来ていない、何も。
　そう思い込もうとしている間にもう一度同じ通知音が鳴る。
　蓮はその音に今度はヒッ、という情けない声を上げてしまった。
　一体なんだ、何の用事があるというのだ。

　蓮がスマートフォンを見て情けない声を上げている一方で葵は大きな溜息を吐いた。
　どうせ返事は無いだろう。もしかしたら即ブロックされているかもしれない。
　先日終電を逃してタクシーで帰ろうとした時。余りにも並んでいて埒があかないと判断した葵は少しでも楽して帰れないかと思い、一か八かで周囲の人に声をかけていたのだ。
　まさかそこにあの夜月蓮がいるとは思ってもいなかった。
　彼を一目見た瞬間に蓮だとわかった。背丈は高校の時よりも伸びてはいたが、彼が纏う暗いオーラは変わっていなかったからだ。
　――寧ろ前よりも暗くなってんだよなぁ。
　高校の時に惹かれた蓮の花の様な瞳はそのままだが、全体的な雰囲気が以前よりも暗くなっている、と葵は感じた。
　そして、どうして彼がそうなってしまったのかも心当たりがある。
「まああの時だよなぁ」
　蓮がクラスメイトに茶化されそうになって自身を守るために吐いた嘘。
　そしてその場に居合わせてしまった自分。
　あの時目が合ったから蓮自身、己がどういう発言をしてしまったのか、自覚はしっかりあったのだろう。だからこそ、違うと咄嗟に否定しようとした蓮の声は震えていて。
「……俺もあの時ちゃんと蓮と話せば良かったんだ……」
　自分の全てがあの瞬間に否定されてしまった感じがして、つい言い返してしまって。
　その後、クラスで自分がどういう扱いを受けるのか予想できていた葵は不登校という形で逃げてしまった。
　そして、親に上手い事言ってあの学校から別の学校へと移ってしまったのだ。
　それから色々な経験を経て大人になった今なら少しだけわかる。蓮が保身に走ってしまった事も、そして自分自身が蓮と向き合う事から逃げてしまった事も。
　蓮に、挽回の余地を与えなかったのだ。そして、それが蓮を縛り付けているだろうという事も想像できた。
　連絡先もわからない、きっとこれから会う事もない、だから半永久的に蓮を苦しめてしまうのだろう、と思い続けてきたのに先日。
　奇跡的な再会を果たしてしまった。
　同じタクシーに乗り込んで、何とか連絡先を入手して。
　しかも住んでる場所も近所ときた。
　葵は転校の際に引っ越しもしたので元からこの地に住んでいる訳ではなかった。
　なので、住居が近所なのは完全なる偶然である。
　これはチャンスだ、と葵はその時思った。元の様な仲に戻れるなんて思ってないけれど、せめてお互いの胸に詰まる靄だけは払おう。そう、考えたのである。
　己のスマートフォンに「夜月　蓮」という連絡先が追加された事に幸福感を抱きながら葵はその夜ぐっすり眠れたのを覚えている。

　しかし、連絡先を手に入れても数日間は連絡をすることができなかった。
　蓮にブロックされていたらどうしよう、とか既読スルーされたらどうしよう、とか悪い方にばかり物事を考えていたからである。
　自分が蓮だったら、過去に色々あった人物から連絡が来たらどうするか……無視だよな、と考えては沈んだり。
　ついには職場で同僚に「表情が沈んでいるけど大丈夫か」と心配される始末である。
　同僚には「心配事があって」とだけ言って事なきを得たが、このままでは仕事に影響してしまうのでは、と思った葵は意を決してスマートフォンを手に取る。
　このままではいけない。
　もし～だったら、なんて行動すら起こしていないのに心配をする方が勿体ないだろう。
　無視をされたらされた、ブロックならそれまで。
　蓮はもう自分とは会話をしたくない、完全に縁を切りたい、という事で納得するしかない。

　葵がスマートフォンを見ながら大きな溜息を吐いているだなんて露知らず、蓮は己のそれを見ながら開こうかどうしようか、という所で迷い続けていた。
　連絡なんてしてこないだろう、と思っていた節はある。それにブロックをしてしまえば良かった、とも。
　否、連絡先を交換して帰宅したその日の内に彼をブロックしようと一瞬考えてはいたのだ。
　しかし、それでは今までの自分と何ら変わりが無く、逃げているだけだと思い、深呼吸をして。
　一体何が書かれているのか。
　ばくばくと心臓がうるさく鳴っているのを感じながらスマートフォンの画面を開く。
そして、通知マークがついているメッセージアプリを開いて内容を確認する。
「向日　葵」の欄を選んで、トーク画面を開いて。
『急にメッセージ送ってごめん。でもこの前会えたの凄く嬉しくて。今度……いや、蓮の都合が良いときでいいんだけど、どっかで飯でもどう？　この前余り話せなかったから……』
　文の末尾には「蓮が会いたくないならそれで良い」と書かれていて。
　その文章を見た瞬間、蓮の脳内で色々な考えがぐるぐると渦を巻き始める。
　文章のどこをどう読んでもこれは純粋な食事の誘いだ。それ以上でもそれ以下でもない。
　学生以来会う事のなかった同級生との再会の儀。ただそれだけだ。
　アー……と呻いて蓮は天を仰ぐ。
　葵の言葉に甘えて今回は断るか？　しかしここで断ったら次の機会は無いのではないか？
　それにここで断ってしまったら全てが元に戻ってしまう。あそこで再会したのも何かの縁だし、メッセージアプリで葵をブロックしなかったのも過去を引きずってもしょうがないという自身の気持ちの現れでもあるし。
　しばらく呻いて、そして何度も文章を読み返してから蓮は覚悟を決める。
「よし……会うか、葵に……」
　そしてトーク画面に己の返事を打ち始める。
『都合があえばでいいんだけど、飯くらいなら』
　「俺も会いたい」とか「話したい事があるんだ」とか色々打ち込んでいたが、返信としてこの言葉はどうなんだ？　と思い打っては消してを繰り返した結果、随分とシンプルな言葉になってしまった。
　が、シンプルでいいだろうと判断した蓮はその文章を送信する。
　都合が合えば、という言葉で近日に設定しないように距離を図りつつも、でも会わないという意思は無いよと示してみる。
　この言葉を向こうがどう受け止めるかはわからないが、葵の事だからきっと変に捻じ曲げてはこないだろう。
　どうせ向こうも仕事だからそうすぐには返事はないだろうと思って画面を閉じようとしたが、瞬時に「既読」の文字がついて蓮は目を丸くする。コイツ仕事中じゃないの？
　まあ……見ただけかもな。と画面を消そうとした瞬間。
『会ってくれるの嬉しい。俺、基本土日休みだけど、蓮は？』
　その文章を見た瞬間、蓮の口から「わぁ……」という言葉が自然に漏れ出してしまった。まさかここまで前のめりに聞かれるとは思っていなかったのだ。
　だがこれに返事をしないのは無視している様で嫌だ。
　そう思った蓮は『俺も基本的に土日は休み。時々仕事が入るけど』と返す。
　すると、またすぐに既読という文字がつく。コイツ本当に仕事してんのか？　まあ俺もだけど。
『直近で空いてる土日ってどこ？』
　その文章が現れた瞬間、蓮は口をぱくぱくと開閉させてしまった。
　土日なんて基本的に空いているけれど、仕事の疲れがあってか殆ど寝て過ごしているのだ。
　直近、と言われると今週末と答えられるがそんなすぐに葵と会えるかと言われたら少し不安ではある。
　そう考えていると追加の文章が送られてくる。
『俺は今週の土日空いてるよ』
　うわ。マジか。
　丁度自分も空いている日を挙げられ、蓮はどうしようかと思考を巡らせる。
　勿論断る事だってできる。けれど断ったところでじゃあいつなら都合がいい？　という流れになるのは目に見えているではないか。
　それに先延ばしにすればする程、葵に会うという決意が薄れそうで。
　くそ、と蓮は小さく呟いてから深呼吸をする。
　葵からの返事が来てからずっと心臓がうるさい。
　どうしようか……と返事を考える。今週末にするのならば土曜日に設定した方が日曜ゆっくり休めるだろう。
　うう……と呻きながらメッセージを打ち込み始める。
『俺も土日空いてる、土曜の方がいいかも』
　そう返すとすぐに既読、の印がついて。
『じゃあ土曜日にしよう。店とかは俺が予約するから、決めたらまた連絡するね』
　間をおかずに返ってきた文章を見て蓮は息を飲んでしまった。
　店を予約？　チェーンの居酒屋で簡単に飲むとかではなく？
　会社の飲み会だってチェーン店なのに。
　ぅぁあ、と情けない声を出してその場に蹲ってしまう。会うと決めたのは自分なのにいざそれが実現してしまうとなるともう少し先にしても良かったのかもしれない、と思ってしまうのだった。

「ま……マジか……」
　葵は蓮から返ってきた文章を見て目を丸くしてしまった。
　正直こんなに上手く話が進むとは思っていなかったのだ。　
「蓮の事だからめちゃくちゃ避けてくると思ったのに……」
　直近で今週末を提案した際にそこはちょっと……と言われると思っていた葵は想定外の蓮の言葉に吃驚していた。
「少しは俺と向き合ってくれるつもりなのかな……」
　高校の頃の蓮だったらきっと自分と会う事すら拒絶していただろう。
　メッセージアプリに返信が来る事、そして自分と会うという選択肢を選んでくれた事、が嬉しくて葵はスマートフォンをぎゅっと握りしめる。
　そして、土曜日の為に自分のお気に入りの店に予約を入れるのだった。 ]]>
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		<dc:date>2026-07-14T01:20:41+09:00</dc:date>
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		<title>終電を逃して</title>

		<description>「あ……」
　発車のベルが鳴り、ドアが閉…</description>
		<content:encoded>
			<![CDATA[ 「あ……」
　発車のベルが鳴り、ドアが閉まる。目の前で起きた残酷な現実に彼……夜月蓮は思わず膝をついてしまった。
　苦労の末に入社した会社の飲み会に無理矢理参加させられた挙句、終電があるからと言ったのに二次会にまで引き出されて、ようやく解放されたかと思えばこの様である。
　巡回に来た駅員に「終電が行ったからホームから出てくれ」と言われ、駅からも放り出されてしまう。
　かくなる上はタクシーを拾って帰るか。それか明日の事を考えて近所のビジネスホテルに泊まるか。
　とはいえ、この辺りのビジネスホテルはインバウンド客目当てに宿泊料を以上な程吊り上げていて、一端の社会人である蓮には到底払えない額になっている。
　近所には夜を過ごせそうな漫画喫茶やインターネットカフェも無く。
　怪しげな風俗と寂れたラブホテルならあるけれど。
「参ったな……明日朝一から会議だからできれば家に帰りたいな……」
　徒歩で帰るとしたら一体どのくらいかかるだろうか。
　クソ、と蓮は思わず舌打ちをする。あのクソ上司め。明日朝一で会議だから二次会は無理だと言ったのに。
　どうせ君の帰りを待っている彼女なんていないんだろう、君？　じゃあ付き合いなさい。と言われその言葉に反論できずに従ってしまった自分も自分だが。
　――彼女なんて一生できねぇよ……。
　ぎゅう、と胸の辺りを掴む。ある時から一生の傷を負って生きている。それは外傷ではなく、蓮の心の内側を深く抉った傷。
　一生癒えないし、癒えてはいけない、蓮が生きている限りずっと背負っていかなければならない、傷。
　彼はかつて想い人を傷つけた過去がある。
　傷つけた、なんて軽い言葉では片づけられない程の。
　罪はいつか償えばいい、なんていうけれど償う機会すら与えられず。
　あの時の自分は愚かだった、浅はかだった、下らない同調圧力なんかに屈さず、自分を、彼を、きちんと認めていたら。それだけの人間性が育っていたならば。
　目を瞑ると今でも彼の顔を思い出す。あの瞬間、自分が彼を傷つけたのだ、と気付いてしまった。
　彼の顔を思い出しながら蓮は大きなため息を吐いた。それは自分に対してか、それとも家に帰れないという現状に対してか。
　財布とスマートフォンを確認する。うん、これならタクシーで帰れそうだ。
　そう思い、深夜のロータリーへと向かう。そこには蓮と同じく終電を逃して帰れなくなった人々が列を成している。
　自分の順番まで長そうだ、と思いながらその列に並ぶ。一体何時に家に帰れるのだろうか。

※※※

　タクシーの列に並び始めてほぼ一時間が経った。
　あれから確かに列は進んでいるものの、蓮の順番まではまだ時間がかかりそうで。
　これなら歩いて帰った方が速かったな……と腕時計を確認する。これで家に帰ったとて、翌日すぐに出なければいけないので、何時間眠れるかわかったものではない。
　いや、ビジネスホテルの方が良かったな、と判断を誤った事を後悔していると、何やら前方から声がすることに気付いてそちらに視線を向けた。
　どうやら相乗りできる相手を探しているらしい。早めに家に帰れるし、タクシー代は割り勘できるから、という理由らしい。
　世の中お人よしもいるもんだ、と蓮はその声を聞きながら思う。
　今時タクシー相乗りする奴なんているのだろうか。見ず知らずの他人と一緒に車に乗るなんて何が起きるかわかったものではない。
　どうやら声の主は前から順番に声をかけているらしく、段々蓮の方に近付いている事に気付いて蓮は視線をスマートフォンに向ける。面倒な事には極力首を突っ込みたくないのだ。
「突然すいません。あの、もし帰る方向が同じならタクシーの相乗りをお願いしたいのですが」
「……多分方向違うと思うので」
「えっと、俺、東町の方なんですが」
　クソ。蓮は小さく舌打ちした。偶然にも同じ方向ではないか。
　どうするか。声の調子的に自分と同い年くらいの男……で物腰柔らかな感じがする。
　ちら、とスマートフォンから目を離して少しだけその男を見て……そして固まってしまった。
　――嘘、だろ……？
　嘘だと言って欲しい。こんな事あってたまるか。何で、どうして。
　向日葵の花びらに似た色の瞳、頭髪は染めたのだろう、太陽の様な金色。
　記憶にある姿とは若干違うけれど。間違いない。
　――葵……。
　向日　葵。
　蓮の高校の同級生にして、彼がもう二度と会いたくないと思っている人物。
　会いたくない、というよりも会う資格がない、と思っていると言った方が良いか。
　その人物が目の前にいる。
「アー……東町、なら方向一緒ですね……」
　向こうは自分に気付いているだろうか。いや、気付かないでくれ。
　そう思いながら蓮は出来るだけ相手の顔を見ない様にして答える。
　周りから見たら初対面の相手に対して何て失礼な奴だと思われるだろう。が、それでいい。
　葵自身にもそう思ってもらって、コイツはやめよう。そう決めてくれるかもしれない。
「東町、奇遇ですね。もう夜遅いし、お互い明日も仕事ですよね？　出来るだけ早く帰れる方が良くないですか？」
　ね？　と昔と変わらず軽い口調で言われ、蓮は思わず頷いてしまった。
　――俺は意思が弱い。
　そう思いながら葵とともにタクシーに乗り込んだ。

　タクシーの車内は静まり返っていた。
　蓮は出来るだけ葵の方を向かない様に窓の外をずっと見たり、スマートフォンに視線を落としたりして。
　時々葵がこちらを見ているような気がしたが、絶対にそちらは見なかった。
　タクシーの運転手も特に話しかけてくる、という事もなく車内で流れている無線と、ラジオの音声だけが響き渡っていた。
「お客さん、どっちが先に降りるの」
　東町に入った頃、ずっと黙っていた運転手が口を開く。
「えぇっと……どの辺ですか？」
　橙の瞳がこちらを向く。出来るだけそれを見ないようにして蓮は口を開く。
「……三丁目」
「あ、じゃあ俺が先に降りますね」
　それに何と答えようかと言葉を考えている間に、葵は「運転手さん」と声をかけていた。
「俺、三丁目のコンビニで降ります」
　葵の言葉に運転手は「はいよ」と短く返事をして。
　そこから再びの沈黙。
　蓮が暮らしているのは二丁目なので、実質葵とは近所という事になってしまったらしい。
　何故なら高校時代に葵は急に転校してしまったから。どこに行ったのかも、その後どうなったのか、も蓮は怖くて聞く事も調べる事もできなかったのだ。
　それがまさかこんな形で。
　そんな事を考えている内にタクシーは葵の告げたコンビニに到着する。
　そして、このコンビニで事は起きる。
「……半分出します」
「えっ、いいですよ。俺が半ば無理矢理乗せちゃったんですから」
「それでも」
「じゃあ……お金じゃなくて、連絡先を聞いてもいいですか」
「……は？　連絡先……？」
「そう。連絡先」
　向日葵の橙が蓮の……その名の通り蓮の花に似た瞳を見る。
　この瞬間、蓮はタクシーの運転手に料金の支払いを急かしてくれないかとどれほど思ったことか。
「何で……」
　視線が交わった瞬間、蓮は慌ててそれを反らした。いつまでも見ていたら自分が誰かバレてしまうと思ったから。
「何でって、ようやくお前に会えたからだよ」
　にっこりと微笑み、優しい口調で言われる。
　――とっくにバレて……た……！
　ぞわぞわ、と悪寒が背筋を駆け抜ける。ぎゅっ、と心臓を掴まれたような痛みを覚え、脳内がぐらぐらとゆれて、視界が真っ白になっていく。
　バレないように極力顔を見せないようにしていたのに。
　もしかしたら最初からバレていたのかもしれない。
　だから、このタクシーに相乗りさせたのかも。
「ね？　お前だよね。蓮」
　蓮。夜月、蓮。
　名前を呼ばれ、蓮は口をぱくぱくと開閉した。ここまで来て「人違いです」は通用するだろうか。否、しないだろう。
　ちら、と運転手の方を見ると、これから一体何が起きるのかという好奇心を浮かべてこちらを見ているではないか。
　見せモンじゃないんだぞ、と思いつつもずっとこちらを見ている葵の方に恐る恐る視線を戻す。
「……もしかして俺の事忘れた？　俺はずっと覚えてたのに？」
　まさかだろ、と漏らされた言葉に蓮の胸がキンッと痛む。どうするか。何とか言い訳と嘘を重ねて逃れるか。
　……しかし。それではあの頃の自分と何も変わらないのではないだろうか。
　ごくり、と生唾を飲み込む。緊張で乾いてしまった唇をぺろ、と舐めてゆっくりと口を開く。
「……忘れられる訳、ないだろ……」
　あおい。と小さく彼の名を口にすると、目の前の彼はあの頃の様にぱっ、と向日葵の様な笑顔を浮かべて。
「そうだよな！　忘れられないよな、お前はな」
　ま、それはいいや。と葵は自分のスマートフォンを取り出してメッセージアプリを起動させる。
　そして慣れた手つきで自分のページを出すと、蓮にそこを見せて「ここ、読み込んで？」と指示を出す。
　葵とは逆に、そのアプリを滅多に使わない蓮は読み込むためのページを出すのに一苦労で。
　もたもたしながらどうにかそこを読み込むと、「フレンド」と書かれた欄に葵の名が登録される。
「うんうん、俺の方にも登録されたからこれで満足。運転手さん、お待たせしてすいません。これ、ここまでの距離の分です。彼からはここから彼が降りる所までお願いします」
　そう言って、葵は手際よく料金を支払う。そしてタクシーから降りていく。
　去り際に「連絡してね」と蓮に残して。

　残された蓮は運転手に二丁目にあるバス停の前でそこまでの料金を支払って（僅か三百円程度だった）タクシーを降りる。
　そして、自身のメッセージアプリに登録された『向日　葵』の文字を見て盛大な溜息を吐いた。 ]]>
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