「あ……」
発車のベルが鳴り、ドアが閉まる。目の前で起きた残酷な現実に彼……夜月蓮は思わず膝をついてしまった。
苦労の末に入社した会社の飲み会に無理矢理参加させられた挙句、終電があるからと言ったのに二次会にまで引き出されて、ようやく解放されたかと思えばこの様である。
巡回に来た駅員に「終電が行ったからホームから出てくれ」と言われ、駅からも放り出されてしまう。
かくなる上はタクシーを拾って帰るか。それか明日の事を考えて近所のビジネスホテルに泊まるか。
とはいえ、この辺りのビジネスホテルはインバウンド客目当てに宿泊料を以上な程吊り上げていて、一端の社会人である蓮には到底払えない額になっている。
近所には夜を過ごせそうな漫画喫茶やインターネットカフェも無く。
怪しげな風俗と寂れたラブホテルならあるけれど。
「参ったな……明日朝一から会議だからできれば家に帰りたいな……」
徒歩で帰るとしたら一体どのくらいかかるだろうか。
クソ、と蓮は思わず舌打ちをする。あのクソ上司め。明日朝一で会議だから二次会は無理だと言ったのに。
どうせ君の帰りを待っている彼女なんていないんだろう、君? じゃあ付き合いなさい。と言われその言葉に反論できずに従ってしまった自分も自分だが。
――彼女なんて一生できねぇよ……。
ぎゅう、と胸の辺りを掴む。ある時から一生の傷を負って生きている。それは外傷ではなく、蓮の心の内側を深く抉った傷。
一生癒えないし、癒えてはいけない、蓮が生きている限りずっと背負っていかなければならない、傷。
彼はかつて想い人を傷つけた過去がある。
傷つけた、なんて軽い言葉では片づけられない程の。
罪はいつか償えばいい、なんていうけれど償う機会すら与えられず。
あの時の自分は愚かだった、浅はかだった、下らない同調圧力なんかに屈さず、自分を、彼を、きちんと認めていたら。それだけの人間性が育っていたならば。
目を瞑ると今でも彼の顔を思い出す。あの瞬間、自分が彼を傷つけたのだ、と気付いてしまった。
彼の顔を思い出しながら蓮は大きなため息を吐いた。それは自分に対してか、それとも家に帰れないという現状に対してか。
財布とスマートフォンを確認する。うん、これならタクシーで帰れそうだ。
そう思い、深夜のロータリーへと向かう。そこには蓮と同じく終電を逃して帰れなくなった人々が列を成している。
自分の順番まで長そうだ、と思いながらその列に並ぶ。一体何時に家に帰れるのだろうか。
※※※
タクシーの列に並び始めてほぼ一時間が経った。
あれから確かに列は進んでいるものの、蓮の順番まではまだ時間がかかりそうで。
これなら歩いて帰った方が速かったな……と腕時計を確認する。これで家に帰ったとて、翌日すぐに出なければいけないので、何時間眠れるかわかったものではない。
いや、ビジネスホテルの方が良かったな、と判断を誤った事を後悔していると、何やら前方から声がすることに気付いてそちらに視線を向けた。
どうやら相乗りできる相手を探しているらしい。早めに家に帰れるし、タクシー代は割り勘できるから、という理由らしい。
世の中お人よしもいるもんだ、と蓮はその声を聞きながら思う。
今時タクシー相乗りする奴なんているのだろうか。見ず知らずの他人と一緒に車に乗るなんて何が起きるかわかったものではない。
どうやら声の主は前から順番に声をかけているらしく、段々蓮の方に近付いている事に気付いて蓮は視線をスマートフォンに向ける。面倒な事には極力首を突っ込みたくないのだ。
「突然すいません。あの、もし帰る方向が同じならタクシーの相乗りをお願いしたいのですが」
「……多分方向違うと思うので」
「えっと、俺、東町の方なんですが」
クソ。蓮は小さく舌打ちした。偶然にも同じ方向ではないか。
どうするか。声の調子的に自分と同い年くらいの男……で物腰柔らかな感じがする。
ちら、とスマートフォンから目を離して少しだけその男を見て……そして固まってしまった。
――嘘、だろ……?
嘘だと言って欲しい。こんな事あってたまるか。何で、どうして。
向日葵の花びらに似た色の瞳、頭髪は染めたのだろう、太陽の様な金色。
記憶にある姿とは若干違うけれど。間違いない。
――葵……。
向日 葵。
蓮の高校の同級生にして、彼がもう二度と会いたくないと思っている人物。
会いたくない、というよりも会う資格がない、と思っていると言った方が良いか。
その人物が目の前にいる。
「アー……東町、なら方向一緒ですね……」
向こうは自分に気付いているだろうか。いや、気付かないでくれ。
そう思いながら蓮は出来るだけ相手の顔を見ない様にして答える。
周りから見たら初対面の相手に対して何て失礼な奴だと思われるだろう。が、それでいい。
葵自身にもそう思ってもらって、コイツはやめよう。そう決めてくれるかもしれない。
「東町、奇遇ですね。もう夜遅いし、お互い明日も仕事ですよね? 出来るだけ早く帰れる方が良くないですか?」
ね? と昔と変わらず軽い口調で言われ、蓮は思わず頷いてしまった。
――俺は意思が弱い。
そう思いながら葵とともにタクシーに乗り込んだ。
タクシーの車内は静まり返っていた。
蓮は出来るだけ葵の方を向かない様に窓の外をずっと見たり、スマートフォンに視線を落としたりして。
時々葵がこちらを見ているような気がしたが、絶対にそちらは見なかった。
タクシーの運転手も特に話しかけてくる、という事もなく車内で流れている無線と、ラジオの音声だけが響き渡っていた。
「お客さん、どっちが先に降りるの」
東町に入った頃、ずっと黙っていた運転手が口を開く。
「えぇっと……どの辺ですか?」
橙の瞳がこちらを向く。出来るだけそれを見ないようにして蓮は口を開く。
「……三丁目」
「あ、じゃあ俺が先に降りますね」
それに何と答えようかと言葉を考えている間に、葵は「運転手さん」と声をかけていた。
「俺、三丁目のコンビニで降ります」
葵の言葉に運転手は「はいよ」と短く返事をして。
そこから再びの沈黙。
蓮が暮らしているのは二丁目なので、実質葵とは近所という事になってしまったらしい。
何故なら高校時代に葵は急に転校してしまったから。どこに行ったのかも、その後どうなったのか、も蓮は怖くて聞く事も調べる事もできなかったのだ。
それがまさかこんな形で。
そんな事を考えている内にタクシーは葵の告げたコンビニに到着する。
そして、このコンビニで事は起きる。
「……半分出します」
「えっ、いいですよ。俺が半ば無理矢理乗せちゃったんですから」
「それでも」
「じゃあ……お金じゃなくて、連絡先を聞いてもいいですか」
「……は? 連絡先……?」
「そう。連絡先」
向日葵の橙が蓮の……その名の通り蓮の花に似た瞳を見る。
この瞬間、蓮はタクシーの運転手に料金の支払いを急かしてくれないかとどれほど思ったことか。
「何で……」
視線が交わった瞬間、蓮は慌ててそれを反らした。いつまでも見ていたら自分が誰かバレてしまうと思ったから。
「何でって、ようやくお前に会えたからだよ」
にっこりと微笑み、優しい口調で言われる。
――とっくにバレて……た……!
ぞわぞわ、と悪寒が背筋を駆け抜ける。ぎゅっ、と心臓を掴まれたような痛みを覚え、脳内がぐらぐらとゆれて、視界が真っ白になっていく。
バレないように極力顔を見せないようにしていたのに。
もしかしたら最初からバレていたのかもしれない。
だから、このタクシーに相乗りさせたのかも。
「ね? お前だよね。蓮」
蓮。夜月、蓮。
名前を呼ばれ、蓮は口をぱくぱくと開閉した。ここまで来て「人違いです」は通用するだろうか。否、しないだろう。
ちら、と運転手の方を見ると、これから一体何が起きるのかという好奇心を浮かべてこちらを見ているではないか。
見せモンじゃないんだぞ、と思いつつもずっとこちらを見ている葵の方に恐る恐る視線を戻す。
「……もしかして俺の事忘れた? 俺はずっと覚えてたのに?」
まさかだろ、と漏らされた言葉に蓮の胸がキンッと痛む。どうするか。何とか言い訳と嘘を重ねて逃れるか。
……しかし。それではあの頃の自分と何も変わらないのではないだろうか。
ごくり、と生唾を飲み込む。緊張で乾いてしまった唇をぺろ、と舐めてゆっくりと口を開く。
「……忘れられる訳、ないだろ……」
あおい。と小さく彼の名を口にすると、目の前の彼はあの頃の様にぱっ、と向日葵の様な笑顔を浮かべて。
「そうだよな! 忘れられないよな、お前はな」
ま、それはいいや。と葵は自分のスマートフォンを取り出してメッセージアプリを起動させる。
そして慣れた手つきで自分のページを出すと、蓮にそこを見せて「ここ、読み込んで?」と指示を出す。
葵とは逆に、そのアプリを滅多に使わない蓮は読み込むためのページを出すのに一苦労で。
もたもたしながらどうにかそこを読み込むと、「フレンド」と書かれた欄に葵の名が登録される。
「うんうん、俺の方にも登録されたからこれで満足。運転手さん、お待たせしてすいません。これ、ここまでの距離の分です。彼からはここから彼が降りる所までお願いします」
そう言って、葵は手際よく料金を支払う。そしてタクシーから降りていく。
去り際に「連絡してね」と蓮に残して。
残された蓮は運転手に二丁目にあるバス停の前でそこまでの料金を支払って(僅か三百円程度だった)タクシーを降りる。
そして、自身のメッセージアプリに登録された『向日 葵』の文字を見て盛大な溜息を吐いた。
発車のベルが鳴り、ドアが閉まる。目の前で起きた残酷な現実に彼……夜月蓮は思わず膝をついてしまった。
苦労の末に入社した会社の飲み会に無理矢理参加させられた挙句、終電があるからと言ったのに二次会にまで引き出されて、ようやく解放されたかと思えばこの様である。
巡回に来た駅員に「終電が行ったからホームから出てくれ」と言われ、駅からも放り出されてしまう。
かくなる上はタクシーを拾って帰るか。それか明日の事を考えて近所のビジネスホテルに泊まるか。
とはいえ、この辺りのビジネスホテルはインバウンド客目当てに宿泊料を以上な程吊り上げていて、一端の社会人である蓮には到底払えない額になっている。
近所には夜を過ごせそうな漫画喫茶やインターネットカフェも無く。
怪しげな風俗と寂れたラブホテルならあるけれど。
「参ったな……明日朝一から会議だからできれば家に帰りたいな……」
徒歩で帰るとしたら一体どのくらいかかるだろうか。
クソ、と蓮は思わず舌打ちをする。あのクソ上司め。明日朝一で会議だから二次会は無理だと言ったのに。
どうせ君の帰りを待っている彼女なんていないんだろう、君? じゃあ付き合いなさい。と言われその言葉に反論できずに従ってしまった自分も自分だが。
――彼女なんて一生できねぇよ……。
ぎゅう、と胸の辺りを掴む。ある時から一生の傷を負って生きている。それは外傷ではなく、蓮の心の内側を深く抉った傷。
一生癒えないし、癒えてはいけない、蓮が生きている限りずっと背負っていかなければならない、傷。
彼はかつて想い人を傷つけた過去がある。
傷つけた、なんて軽い言葉では片づけられない程の。
罪はいつか償えばいい、なんていうけれど償う機会すら与えられず。
あの時の自分は愚かだった、浅はかだった、下らない同調圧力なんかに屈さず、自分を、彼を、きちんと認めていたら。それだけの人間性が育っていたならば。
目を瞑ると今でも彼の顔を思い出す。あの瞬間、自分が彼を傷つけたのだ、と気付いてしまった。
彼の顔を思い出しながら蓮は大きなため息を吐いた。それは自分に対してか、それとも家に帰れないという現状に対してか。
財布とスマートフォンを確認する。うん、これならタクシーで帰れそうだ。
そう思い、深夜のロータリーへと向かう。そこには蓮と同じく終電を逃して帰れなくなった人々が列を成している。
自分の順番まで長そうだ、と思いながらその列に並ぶ。一体何時に家に帰れるのだろうか。
※※※
タクシーの列に並び始めてほぼ一時間が経った。
あれから確かに列は進んでいるものの、蓮の順番まではまだ時間がかかりそうで。
これなら歩いて帰った方が速かったな……と腕時計を確認する。これで家に帰ったとて、翌日すぐに出なければいけないので、何時間眠れるかわかったものではない。
いや、ビジネスホテルの方が良かったな、と判断を誤った事を後悔していると、何やら前方から声がすることに気付いてそちらに視線を向けた。
どうやら相乗りできる相手を探しているらしい。早めに家に帰れるし、タクシー代は割り勘できるから、という理由らしい。
世の中お人よしもいるもんだ、と蓮はその声を聞きながら思う。
今時タクシー相乗りする奴なんているのだろうか。見ず知らずの他人と一緒に車に乗るなんて何が起きるかわかったものではない。
どうやら声の主は前から順番に声をかけているらしく、段々蓮の方に近付いている事に気付いて蓮は視線をスマートフォンに向ける。面倒な事には極力首を突っ込みたくないのだ。
「突然すいません。あの、もし帰る方向が同じならタクシーの相乗りをお願いしたいのですが」
「……多分方向違うと思うので」
「えっと、俺、東町の方なんですが」
クソ。蓮は小さく舌打ちした。偶然にも同じ方向ではないか。
どうするか。声の調子的に自分と同い年くらいの男……で物腰柔らかな感じがする。
ちら、とスマートフォンから目を離して少しだけその男を見て……そして固まってしまった。
――嘘、だろ……?
嘘だと言って欲しい。こんな事あってたまるか。何で、どうして。
向日葵の花びらに似た色の瞳、頭髪は染めたのだろう、太陽の様な金色。
記憶にある姿とは若干違うけれど。間違いない。
――葵……。
向日 葵。
蓮の高校の同級生にして、彼がもう二度と会いたくないと思っている人物。
会いたくない、というよりも会う資格がない、と思っていると言った方が良いか。
その人物が目の前にいる。
「アー……東町、なら方向一緒ですね……」
向こうは自分に気付いているだろうか。いや、気付かないでくれ。
そう思いながら蓮は出来るだけ相手の顔を見ない様にして答える。
周りから見たら初対面の相手に対して何て失礼な奴だと思われるだろう。が、それでいい。
葵自身にもそう思ってもらって、コイツはやめよう。そう決めてくれるかもしれない。
「東町、奇遇ですね。もう夜遅いし、お互い明日も仕事ですよね? 出来るだけ早く帰れる方が良くないですか?」
ね? と昔と変わらず軽い口調で言われ、蓮は思わず頷いてしまった。
――俺は意思が弱い。
そう思いながら葵とともにタクシーに乗り込んだ。
タクシーの車内は静まり返っていた。
蓮は出来るだけ葵の方を向かない様に窓の外をずっと見たり、スマートフォンに視線を落としたりして。
時々葵がこちらを見ているような気がしたが、絶対にそちらは見なかった。
タクシーの運転手も特に話しかけてくる、という事もなく車内で流れている無線と、ラジオの音声だけが響き渡っていた。
「お客さん、どっちが先に降りるの」
東町に入った頃、ずっと黙っていた運転手が口を開く。
「えぇっと……どの辺ですか?」
橙の瞳がこちらを向く。出来るだけそれを見ないようにして蓮は口を開く。
「……三丁目」
「あ、じゃあ俺が先に降りますね」
それに何と答えようかと言葉を考えている間に、葵は「運転手さん」と声をかけていた。
「俺、三丁目のコンビニで降ります」
葵の言葉に運転手は「はいよ」と短く返事をして。
そこから再びの沈黙。
蓮が暮らしているのは二丁目なので、実質葵とは近所という事になってしまったらしい。
何故なら高校時代に葵は急に転校してしまったから。どこに行ったのかも、その後どうなったのか、も蓮は怖くて聞く事も調べる事もできなかったのだ。
それがまさかこんな形で。
そんな事を考えている内にタクシーは葵の告げたコンビニに到着する。
そして、このコンビニで事は起きる。
「……半分出します」
「えっ、いいですよ。俺が半ば無理矢理乗せちゃったんですから」
「それでも」
「じゃあ……お金じゃなくて、連絡先を聞いてもいいですか」
「……は? 連絡先……?」
「そう。連絡先」
向日葵の橙が蓮の……その名の通り蓮の花に似た瞳を見る。
この瞬間、蓮はタクシーの運転手に料金の支払いを急かしてくれないかとどれほど思ったことか。
「何で……」
視線が交わった瞬間、蓮は慌ててそれを反らした。いつまでも見ていたら自分が誰かバレてしまうと思ったから。
「何でって、ようやくお前に会えたからだよ」
にっこりと微笑み、優しい口調で言われる。
――とっくにバレて……た……!
ぞわぞわ、と悪寒が背筋を駆け抜ける。ぎゅっ、と心臓を掴まれたような痛みを覚え、脳内がぐらぐらとゆれて、視界が真っ白になっていく。
バレないように極力顔を見せないようにしていたのに。
もしかしたら最初からバレていたのかもしれない。
だから、このタクシーに相乗りさせたのかも。
「ね? お前だよね。蓮」
蓮。夜月、蓮。
名前を呼ばれ、蓮は口をぱくぱくと開閉した。ここまで来て「人違いです」は通用するだろうか。否、しないだろう。
ちら、と運転手の方を見ると、これから一体何が起きるのかという好奇心を浮かべてこちらを見ているではないか。
見せモンじゃないんだぞ、と思いつつもずっとこちらを見ている葵の方に恐る恐る視線を戻す。
「……もしかして俺の事忘れた? 俺はずっと覚えてたのに?」
まさかだろ、と漏らされた言葉に蓮の胸がキンッと痛む。どうするか。何とか言い訳と嘘を重ねて逃れるか。
……しかし。それではあの頃の自分と何も変わらないのではないだろうか。
ごくり、と生唾を飲み込む。緊張で乾いてしまった唇をぺろ、と舐めてゆっくりと口を開く。
「……忘れられる訳、ないだろ……」
あおい。と小さく彼の名を口にすると、目の前の彼はあの頃の様にぱっ、と向日葵の様な笑顔を浮かべて。
「そうだよな! 忘れられないよな、お前はな」
ま、それはいいや。と葵は自分のスマートフォンを取り出してメッセージアプリを起動させる。
そして慣れた手つきで自分のページを出すと、蓮にそこを見せて「ここ、読み込んで?」と指示を出す。
葵とは逆に、そのアプリを滅多に使わない蓮は読み込むためのページを出すのに一苦労で。
もたもたしながらどうにかそこを読み込むと、「フレンド」と書かれた欄に葵の名が登録される。
「うんうん、俺の方にも登録されたからこれで満足。運転手さん、お待たせしてすいません。これ、ここまでの距離の分です。彼からはここから彼が降りる所までお願いします」
そう言って、葵は手際よく料金を支払う。そしてタクシーから降りていく。
去り際に「連絡してね」と蓮に残して。
残された蓮は運転手に二丁目にあるバス停の前でそこまでの料金を支払って(僅か三百円程度だった)タクシーを降りる。
そして、自身のメッセージアプリに登録された『向日 葵』の文字を見て盛大な溜息を吐いた。